「新しい」発見

「新しい」という意味のギリシャ語は二つあります。νέος(neos)と καινός(kainos)です。

neos

「時間的」に「新しい」という意味をもち、人に用いられるなら「若い」という意味にもなります。ぶどう酒に用いられれば「古いぶどう酒」です。通常、私たちがよく使う「古い」の反意語が、この neos です。

kainos

過去との比較して「新しい」というものではなく、前例のない、斬新な、前代未聞の「新しさ」です。

マタイ 9:17「また、人は新しいぶどう酒を古い皮袋に入れたりはしません。そんな事をすれば皮袋は裂け、ぶどう酒が流れ出て、皮袋もだめになります。新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れます。そうすれば両方とも保てます。」

ここでは、neos の単語が使われています。時間的に「新しいぶどう酒」を意味します。ぶどう酒はじっくり発酵させて作るものですから、普通に考えれば、「新しいぶどう酒」というのは人が好むものではありません。ですから、一般的には、酒は「古いものが良い」となるわけです。イエスが言った通りです。

マタイ 26:29「私はあなた方に言います。今から後、私の父の御国であなた方と新しく飲むその日まで、私がぶどうの実からできた物を飲む事は決してありません。」

「新しく」は kainos なので、斬新なぶどう酒になります。興味深い事に、マタイは、同じぶどう酒に対して違う形容詞を使っているのです。

次に、「新しい人」のケースを見てみます。

コロサイ 3:10「新しい人を着たのです。新しい人は、それを造られた方の形に従って新しくされ続け、真の知識に至ります。」

ここでは neos が使われているので、時間的に「新しい人」になります。

エペソ 2:15「様々な規定から成る戒めの律法を廃棄されました。こうしてキリストは、この二つをご自分において新しい一人の人に造り上げて平和を実現し、」

こちらでは kainos が出ています。ここでは、「斬新な人」の意味で使われています。

コロサイ人への手紙も、エペソ人への手紙もパウロが著者です。何故、パウロも二つの形容詞を使ったのでしょうか?

次は、「契約」という単語です。

へブル 12:24「更に、新しい契約の仲介者イエス、それに、アベルの血よりも優れた事を語る、注ぎかけられたイエスの血です。」

ここでは neos が出ているので、時間的に「新しい」契約になります。

へブル 9:15「キリストは新しい契約の仲介者です。それは、初めの契約の時の違反から贖い出す為の死が実現して、召された者たちが、約束された永遠の資産を受け継ぐ為です。」

ここでは kainos で形容されています。「斬新な契約」の意味になります。両方ともへブル人への手紙の中にあるので、同じ著者による、同じ名詞に対する二つの形容詞が使われている事になります。

まとめ

こうして見ると、同じ著者が意図的に二つの形容詞を使っている事が分かると思います。使徒たちが御霊の霊感によって聖書を書いた事実からすると、これらの形容詞の使用は偶然だろうという「憶測」よりも、意図を持ってそう書いたという「憶測」とする方が無難でしょう。そうすると、これらの「新しいもの」(ぶどう酒、契約、人)は、「時間的に新しい」だけでなく、「斬新」でもあるのです。