神はサタンに許可を与える? 1

 ヨブ記 1:12「主はサタンに言われた。「では、彼の財産を全てお前の手に任せる。ただし、彼自身には手を伸ばしてはならない。」そこで、サタンは主の前から出て行った。」

 この節だけを読めば、神がサタンに許可を与えてヨブを苦しめたという解釈も可能だと言えます。では、神はその時サタンに許可を与えて、その許可を得てサタンは悪事を行なったのでしょうか?

全体の内容

 一つの節だけで何かの結論を出すのではなく、もう少しこのストーリーの内容を把握してみましょう。

 ヨブ記 1: 8「主はサタンに言われた。「お前は、私のしもべヨブに心を留めたか。彼のように、誠実で直ぐな心を持ち、神を恐れて悪から遠ざかっている者は、地上には一人もいない。」

 まず、神は「サタンがヨブに心を留めた」事を知っていました。つまり、サタンの悪だくみを知っていたのです。ここに重要な真理があります。神は全知全能であってヨブの心もサタンの考えも知っているという事です。神だけが人の心などを見る事が出来ますが、被造物にはできません。しかも、神は未来の事も全て知っています。

 ヨブ記 1: 9-10「サタンは主に答えた。「ヨブは理由もなく神を恐れているのでしょうか。あなたが、彼の周り、彼の家の周り、そして全ての財産の周りに、垣を巡らされたのではありませんか。あなたが彼の手のわざを祝福されたので、彼の家畜は地に増え広がっているのです。」

 サタンの典型的な攻撃パターンです。疑問を投げかける事によって誘惑するやり方の事です。ここではまだ彼の悪意は見られません。ヨブが神を恐れるのは神がヨブを祝福したからだとサタンは言いました。深く考えずにいると彼の意見も一理ある感じですが、実はそうではありません。「祝福がなければヨブは神を恐れる事はしない」というのを単に「AがなければBがない」として見ると納得するかもしれませんが、そもそもそのにして見る事が間違いなのです。

 神の祝福とは神の恵み、すなわち神の好意ですから、それを受けるヨブが神を恐れるのは当然だからです。何故なら、まず、「恵みを与えるお方」は神以外存在しません。従って、「神が祝福しなければ」という時点で既に神を神ではないとしているのです。人が神を恐れる理由が神の恵みに基づく事はむしろ自然です。逆に、神の好意を退けるのはとても愚かな事です。

 ヨブ記 1:11「しかし、手を伸ばして、彼の全ての財産を打ってみて下さい。彼はきっと、面と向かってあなたを呪うに違いありません。」

 サタンは、神が「手を伸ばして」ヨブの全ての財産を打ってみて下さいと大胆に神を誘惑しました。サタンがエバにした事と同じです。

 創世記 3: 4-5「すると、蛇は女に言った。「あなた方は決して死にません。それを食べるその時、目が開かれて、あなた方が神のようになって善悪を知る者となる事を、神は知っているのです。」

 さて、ヨブ記1章12節が問題の箇所です。

 ヨブ記 1:12「主はサタンに言われた。「では、彼の財産をすべておまえの手に任せる。ただし、彼自身には手を伸ばしてはならない。」そこで、サタンは主の前から出て行った。」

 ここを読んで「サタンは神の許可を得て悪事をする」、或いは、「神はサタンが悪い事をする為に許可を与える事もある」と考えているクリスチャンは、神の性質とサタンの性質、被造物の自由意志について知らない事になります。それらは新約聖書ではっきりと示されていますが、当時のヨブにはサタンの存在すら、知らないのでした。

 サタンの性質を踏まえて、この聖句からよく解釈される「神からの許可を得る」事について考えてみましょう。私たちが思い出すべき事実は、そもそもサタンはアダムとエバをだまして以来、あらゆる悪事をしてきているという事です。ヨブの時代になって急に神からの許可が必要だとサタンが思いついたわけではありません。地上の全てはもう既にサタンの手の中にあったのです。アダムとエバを騙したサタンは、彼らを肉によって生きる者としました。五感に従って歩むようになった人間は、ある意味、「地上を治める権威」を放棄してしまったかのようなのです。その結果、サタンはやりたい放題の悪を地上で始めました。権威とは誰からの「許可なし」に何かをする事を意味します


サタンの支配

 サタンがこの世を支配する事になったのは以下の箇所から分かります。

 使徒の働き 26:18「それは彼らの目を開いて、闇から光に、サタンの支配から神に立ち返らせ、こうして私を信じる信仰によって、彼らが罪の赦しを得て、聖なるものとされた人々と共に相続にあずかる為である。』」

 第一ヨハネ 5:19「私たちは神に属していますが、世全体は悪い者の支配下にある事を、私たちは知っています。」

 第二コリント 4: 4「彼らの場合は、この世の神が、信じない者たちの思いを暗くし、神のかたちであるキリストの栄光に関わる福音の光を、輝かせないようにしているのです。」

 これらの事を記したキリストの弟子たち(ここではルカ、ヨハネ、パウロ)はサタンの支配を認識しています。しかし、サタンの支配は神がサタンに許可を与えたからという事ではなく、アダムの違反が主な原因です。

 また、サタン自身も彼の地上での支配を認識しています。

 マタイ 4: 8-9「悪魔はまた、イエスを非常に高い山に連れて行き、この世の全ての王国とその栄華を見せて、こう言った。『もしひれ伏して私を拝むなら、これを全てあなたにあげよう。』」

 サタンはこの世の全てを彼のものとしたのです。どのようにしてサタンはこの世を支配したのでしょうか?死という武器を持ってです。

 ローマ 5:14「けれども死は、アダムからモーセまでの間も、アダムの違反と同じようには罪を犯さなかった人々さえも、支配しました。アダムは来たるべき方のひな型です。」

 死があるのは罪が原因です。従って、アダムに罪を犯させる事を通してサタンは全ての人を罪の奴隷にして滅ぼしたのです。何故滅ぶのでしょうか?それは、罪の奴隷は報酬として死を与えられるからです。もちろん、そのサタンの計画も失敗に終わっています。十字架の御業によってサタンの計画は破壊されました。しかも、贖いの計画は地の基が定まる前に存在しているのです。つまり、究極的には神の良い計画にまさるものは存在しないのです。

 ヨブ記はしばしば、「神は時にはサタンに悪事をしてよいという許可を与える」という趣旨のメッセージの土台になっていますが、この見方は目で見て判断する人間による、狭い視野からのものです。しかし、神の良い計画は人の思いよりも優れています。

ヨブ記2章は?

 今度はヨブ記2章からです。1章と同じ事をまた解説します。

 ヨブ記 2:3-6「主はサタンに言われた。「お前は私のしもべヨブに心を留めたか。彼のように、誠実で直ぐな心を持ち、神を恐れて悪から遠ざかっている者は、地上には一人もいない。彼はなお、自分の誠実さを堅く保っている。お前は、私をそそのかして彼に敵対させ、理由もなく彼を吞み尽くそうとしたが。」サタンは主に答えた。「皮の代わりは、皮をもってします。自分の命の代わりには、人は財産全てを与えるものです。しかし、手を伸ばして、彼の骨と肉を打ってみて下さい。彼はきっと、面と向かってあなたを呪うに違いありません。」主はサタンに言われた。「では、彼をお前の手に任せる。ただ、彼の命には触れるな。」

 神はここでもサタンの思惑を知っていました。「ヨブに心を留めた」サタンが「何の理由もないのにヨブを滅ぼそうとした」と神は言っています。神の視点によると、ヨブを滅ぼそうとしたサタンはその理由を持っていない、という事です。何故、神はそのような事を知っていたのでしょうか?それは、神が唯一の全知全能のお方だからです。

 サタンはヨブの所有物を破壊したのですが、最初の彼の作戦(ヨブ記1章)は失敗しました。ヨブは神を呪うどころか文句一つ言わなかったからです。そこでサタンはヨブに直接攻撃する事を考え、「彼の骨と肉とを打って下さい」と再び神がヨブを打つようにと言いました。もちろん、神がそんな事をするはずはありません。そこで神は「彼をお前の手に任せる(直訳は手の内にある)」と再び言ったのですが、ここも1章同様、神の意図が隠れています。このストーリーの中心人物であるヨブにもそれが見えませんでした。神の意図とは、自由意志を悪事に利用したサタンを逆手に取って良いものに変えるという事です。

 ヨブ記の1章で、サタンの計画が失敗に終わるという結果を神は既に知っていました。この理解は重要です。という事は、サタンに対して「彼をおまえの手に任せる」と言った神は、「許可」を与えているかのようにサタンの前で振る舞っただけなのです。結果を既に知っている神は、サタンの挑戦に対してあたかも彼に幾らかでもチャンスがあるかのようにしているのです。そうとは知らず、サタンはヨブを直接攻撃するならヨブはきっと神を呪うだろうと考えていました。サタンは自分の思惑通りになると思って再びヨブを襲います。

 ここで少し考えてみて下さい。人間の視点からではなく、神からの視点からです。つまり、結果を既に知っている神の視点です。それならば、サタンは失敗に終わる計画を企んでいたという事になります。無駄な事をサタンはこれからやろうとするのを神は見ていたのです。神がサタンをコントロールして結果を出したのではなく、単にサタンの自由意志がそのように働く事を知っていたのと、ヨブの自由意志が悪に向かう事はないと知っていただけです。ある人は言うかもしれません。何故、神はサタンに未来の結果を言わなかったのか?何故なら、言ってもサタンは信じないからです。その時のサタンは勝算があると思っていて、神に話しています。まだキリストの復活の力を知らずにいたサタンは、全てをコントロールできると考えていました。

 第一コリント 2: 8「この知恵を、この世の支配者たちは、誰一人知りませんでした。もし知っていたら、栄光の主を十字架につけはしなかったでしょう。」

 キリストを十字架につけようとサタンはイスカリオテのユダを筆頭に、多くのユダヤ人の背後で働きました。しかし、それは彼自身が墓穴を掘る事になったのです。

 少しまとめます。ヨブ記を理解する上で必要な基本的知識は、神が全知全能である事、被造物は自由意志を持っていてそれに基づいて行動している事、神の御心(すなわち、神は全ての事を良い方向に持って行こうと計画されている事)です。

神はサタンに許可を与える? 2に続きます。